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050対談-13(ゼロ・ゴ・ゼロ2011年8月号)

 とくしま業界人本音トーク

へえ~そうなんだ!?  第十三回 本家松浦酒造場 社長 松浦素子さん

文:新居篤志 イラストレーション:藤本孝明

 

人の心に土足で踏み込むことを使命とする不肖コピーライター新居篤志が、徳島で頑張るいろんな業界の面々に、飾らない本音を聞き出す連載対談シリーズ。第十三回は、創業二百余年の老舗酒蔵を牽引する10代目社長、松浦素子さんの登場です。

 

 

海こえて酔わせに行くべし!

 

新居:いま日本酒マーケットってどんな感じですか?

松浦:残念ながら、ピーク時の1/3ぐらいだと思います。

新居:1/3ですか・・・。焼酎の方はどうですか?

松浦:焼酎もひところのブームが沈静化して下降気味ですね。いまアルコール業界で元気なのは、「第4のビール」と呼ばれるビールテイストのリキュールぐらいですね。

新居:そういえば松浦さんのところにも、「鳴門鯛」や「鳴門金時」以外に、「すだち酒」をはじめ「にごり梅酒」「にごりゆず酒」「にごりもも酒」とか、いろんなリキュールがありますね。

松浦:はい、カテゴリーでいうと「和リキュール」というんですが、そちらの販売が近年伸びていて、売上げ全体の5割ぐらいを占めています。

新居:「とうがらし梅酒」っていう、我々酒呑みからすると、失礼ですが「何じゃそれ?」っていう酒もあってびっくりしました(笑)。

松浦:はい、一見「キワモノ」みたいな印象ですが、実は意外と売れてるんですよ。

新居:へえ~

松浦:若い世代のアルコールに対する嗜好は、私たちの世代や上の世代とはかなり違ってきてて、乾杯はビールではなく梅酒、料理もリキュール系と一緒に・・・という方も増えているようです。あと、女性がお家でのリラックスタイムにフルーティなリキュール系のお酒を飲まれている、という傾向もあると思います。

新居:僕ね、若い時はビールとウイスキーが専門だったんですが、40歳を越えたあたりから日本酒が急に好きになったんですよ。食べ物の嗜好が変わってきたっていうのもあるし、日本酒の良さが分かってきたというか・・・

松浦:私もそうです。若い頃は、日本酒は飲まなかったですね。お酒というのは、その国の気候風土や食文化から生まれたものですから、日本人にとって日本酒は体質に馴染みやすいお酒なのだとは思います。

新居:日本酒を飲むと、悪酔いするって若い頃は信じてたんですが、あれ違いますよね。

松浦:はい、口当たりがいいので、つい飲み過ぎてしまうということだと思います。

新居:最近の僕の至福パターンは、マグロの赤身なんかをつまみながら、ちょっと高級な純米酒をチビチビやる・・・という感じなんですが、もったいなくてたくさん飲まんから、二日酔いしないという事実に気がつきました。

松浦:なるほど(笑)。

新居:「ああ年取るほどに、日本人」という僕がつくったコピーがあるんですが、やっぱり最終的には日本酒とか焼酎が、DNAが喜ぶというか酔い心地も気持ちいい気がします。・・・ところで、5月に発売された焼酎「田舎侍」の評判はどうですか?

松浦:今のところ徳島限定で販売しているんですが、おかげさまで好調です。玄米の懐かしい香りが特長で、焼酎好きの方にも新鮮なようです。

新居:侍といえば、松浦さんのところは江戸時代の創業ですよね。

松浦:文化元年(1804年)です。

新居:松浦さんで何代目ですか?

松浦:10代目です。

新居:ほお~

松浦:実は、先々代の社長が家系を調べたところ、松浦家のルーツは海賊だったようです。

新居:海賊っすか!

松浦:九州の長崎、平戸、五島周辺を根城にしていた「松浦党」という水軍の末裔なんだそうです。鎌倉時代、蒙古襲来の時に戦ったとか・・・

新居:蒙古襲来! デイリースポーツ以外で、久しぶりに聞いたフレーズです。

松浦:阪神ファンですか(笑)

新居:いえ、長嶋ジャイアンツファンです。いや~でも恐れ入りました。海賊の末裔って、憧れますなあ~!昔の海賊ってね、パイレーツ・オブ・カリビアンじゃないですけど、多少悪いこともしたんでしょうが、ロマンがあったと思うんですよね。陸で生きる人とは違う、何か信念や誇りみたいなものがあったと思うんです。

松浦:家系の話を聞いて、自分たちはもっと頑張れるんじゃないか、もっと市場に果敢に攻めていっても良いんじゃないかって、いう気がしました。勇気をもらったというか・・・

新居:海こえて褒められに行ったのは「ぶどう饅頭」さんですが、松浦さんとこは海こえて酔わせに行くわけですな。「田舎侍」ってそういう雰囲気のある名前だし。僕で良かったら、クルーとしてお供しますよ、船長!

松浦:ありがとうございます(笑)。でも、なんか新居さん・・・船酔いしそうですね。

新居:ゲゲ、よくご存じで(笑)。

 

 

対談後記

徳島発女子3ピースバンドの楽曲にも登場する「すだち酒」は平成15年当時、月5万本もの出荷があったという。残念ながら、僕はその酒のことをほとんど知らない。若かりし頃の僕にとって酒はビールかバーボンだった。人と酒の関わりは、それぞれ時代背景があったり、嗜好の変遷があったりで、メーカーとしては常に順風満帆とはいかないのだろう。「地元の皆さんがもっと気軽に集まって、楽しんでもらえる酒蔵にしたい」と語る松浦社長。企業寿命は30年という説もあるが、創業二百余年の企業には、それ相応の人を惹きつける何かが息づいているのだろう。毎年秋に開催されている「蔵びらき」に、今年はぜひ行ってみたいと思った。

 

◎Motoko Matsuura

昭和39年鳴門市生まれ。大学卒業後、(株)ジャストシステムに入社。以降21年間、IT関連企業でキャリアを積む。2009年4月(株)本家松浦酒造場に入社。利き酒師の資格を取得。2011年4月(株)本家松浦酒造場、(株)本家松浦酒造販売の代表取締役に就任。ホームページ:www.shumurie.co.jp