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050対談-15(ゼロ・ゴ・ゼロ2011年11月号)

とくしま業界人本音トーク

へえ~そうなんだ!?  第十五回 パティスリー・バナナダンス  社長 松浦和代さん

文:新居篤志 イラストレーション:藤本孝明

 

人の心に土足で踏み込むことを使命とする不肖コピーライター新居篤志が、徳島で頑張るいろんな業界の面々に、飾らない本音を聞き出す連載対談シリーズ。第十五回は人気スイーツショップのオーナー、松浦和代さんの登場です。

 

バナナが踊れば、心も躍る。

 

新居:今日も、たくさんお客さんが入ってますね~。

松浦:おかげさまで、ありがたいです。・・・でもほんまは、もっと来ていただけるよう努力しないといけないんです。

新居:といいますと?

松浦:私たちの業界はね、冬場がメインなんですよ。クリスマスもありますし。一日千人お客さんが来られる日もあるんですけど、夏場はどうしてもね、難しいです。

新居:千人っすか! すこいなあ。儲かってしゃーないじゃないですか。

松浦:いやいや、材料費や人件費を考えるとね、なかなか厳しいんですよ、この業界は。冬場の利益を夏場に全部はき出すっていう感じで。

新居:へえ~聞いてみんと分からんもんですな。ところで、オープンして何年になります?

松浦:最初の小さいお店が6年前、今の店舗に変わって3年になります。

新居:お世辞を言うわけじゃないんですが、おいしいって評判ですよね。

松浦:ほんまに!

新居:はい。仕事柄いろんな人にこそこそリサーチしてるんですけどね、誰に聞いてもおいしいって言いますよ。

松浦:うれしいなあ・・・なんか涙でそう。

新居:せっかく綺麗に化粧されているのに崩れますよ(笑)。

松浦:ハッハッハッ~(笑)。

新居:そういや社長、今日は髪もメイクもばっちり決まってますが、イラストなんで写真撮影はありませんよ。

松浦:知ってますよ!(笑)。最近はね、厨房じゃなくて販売の方にまわってますから。

新居:そんなのスタッフさんにまかせりゃいいのに。

松浦:新居さん、ケーキ屋さんてね、厨房だけじゃなくて販売も大切なんですよ。

新居:適当に任せてたら、どうにかなるってもんじゃないんですね。

松浦:もちろん。ラッピングひとつとっても技術がいるし、ケーキの質だけ追求しても店は繁盛しないと思います。お客さんの気持ちが瞬時に分かるようにならないと・・・。販売面をね、もっと改善したいと思って先頭に立ってがんばってます。

新居:なるほど。話は戻りますが、バナナダンスさんのケーキがおいしいっていう話なんですけど、なんでおいしいって言われると思います? やっぱ素材の違いですか?

松浦:素材は、もちろん良いものを選んでますけどね、いわゆるブランド品を使ってるわけじゃないんです。例えば卵だと、希少で高価なものを試したこともありますが、品質管理のことや売値のことを考えると、そこにこだわりすぎてはいけないと今は思ってます。信頼できる環境で育った新鮮な卵だったらOK。ほんと言うと殻を割る作業は省くこともできるんですけど、試してみたら、どうも味がしっくりしなくて、手間や衛生管理は大変なんですけど、殻つきで卵を仕入れています。

新居:良質な素材を手間ひまかけて丁寧に、ということですね。他になんかありますか?

松浦:私、食べるのが好きなんですよ。お菓子に限らず、いろんな場所でいろんなおいしいモノを食べてきました。だからというか、味覚にはそれなりに自信があって、自分がおいしいと思えないモノは絶対に出さないんです。試作ではOKだったけど、量産し始めたらやり直し・・・みたいこともしょっちゅうです。

新居:言われてみれば、それが基本なんでしょうね。「おいしさ」って答えがあるわけじゃないんで、何を基準にするかっていったら、最後は自分の味覚しかないですもんね。

松浦:結局、自分が一番おいしかったお菓子って何だろうと記憶をたどると、子どもの頃に姉がつくってくれたクッキーだったりして(笑)。昭和の頃のやさしい味というか・・・。そういう温かい味が、私の原点だと思います。

新居:バナナダンスのお菓子って見た目は今風の洒落た印象ですが、中身は昭和の味・・・。まさに、社長そのものかも(笑)。

松浦:私って昭和のイメージなの? いやだ~(笑)。

新居:昭和のイメージ、ぜんぜん悪くないですよ。

松浦:そういやこないだね、若いスタッフに「ガッビーン!」って言ったら、「それ何ですか?」って真顔で聞かれた(笑)。

新居:「ガッピーン!」は、きょうびオッサンも、あんまり言わんと思うなあ(笑)。

松浦:新居さん、「きょうび」っていうのも若い子は使わんよ~。

新居:ガッビーン!(笑)

 

対談後記

バナナダンスのケーキを買って帰ると、普段は厳しい目線を投げかける妻子も、穏やかな表情になるから不思議だ。おいしいお菓子というのは、家族に平和をもたらす。松浦社長の原点という「昭和のやさしい味がするクッキー」を焼いたお姉さんは、今バナナダンスの厨房で右腕として活躍している。味に一切妥協しない社長としばしば衝突することもあるそうだが、「私のこだわりに付き合ってくれて、姉にもスタッフにも本当に感謝している」というのが普段言わない本音だ。「おいしいものを食べた時の心が躍る感じ」をイメージしてつけられた屋号、バナナダンス。数あるフルーツの中でバナナを選択したところに、僕は松浦社長のセンスの確かさを感じる。そして、やはりどこか昭和のフレーバーが入っているところも見逃せない。

 

◎Kazuyo Matsuura

昭和44年徳島市生まれ。30代半ばで一念発起し「ル・コルドン・ブルー神戸校」に入校。ケーキづくりの奥深さに魅了され起業を決意、平成20年に現在の北島店をオープンさせた。ケーキ教室ではこれまで約百人の生徒さんにバナナダンスの味を伝授。徳島県洋菓子協会理事。