Sep 2010 « 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 »

対談連載-2(ゼロ・ゴ・ゼロ 2010年9月号)

とくしま業界人本音トーク

へえ~そうなんだ!?  第二回 税理士 伊勢文郎さん

 

人の心に土足で踏み込むことを使命とする不肖コピーライター新居篤志が、徳島で頑張るいろんな業界の面々に、飾らない本音を聞き出す連載対談シリーズ。第二回は37歳の若き敏腕税理士、伊勢文郎さんの登場です。

 

 

ある日、父が死に、三千万円が消えた!

 

 

新居:失礼ながら、伊勢さんって37歳に見えないんですけど。

伊勢:よく言われます(笑)。

新居:やっぱ、経営や遺産相続の相談を受けるという仕事柄、いろんな修羅場をくぐって、そんな風貌になられたんでしょうか?

伊勢:いや、若い時から老けてると言われてきたんで、やっと追いついてきたのかな、と自分では思ってます。うちは税理士法人ということもあり、お客様の数も多いんですね。私が関わっているだけでも、年間で数百社はありますので。個人事務所さんのおそらく5倍ぐらいの数だと思います。それが、老けの原因かもしれません(笑)。

新居:ということは、10年で50年分の仕事をされたことに・・・。工芸職人なら人間国宝級ですね! で、やっぱりありますよね、修羅場。

伊勢:それは、まあ、それなりに・・・。

新居:テレビドラマなんかで、実は死んだ先代の社長に隠し子がいて事件の鍵を握っている、なんていう定番ネタがありますが、そういうことがこの徳島にも実際に起こってるんでしょうか。

伊勢:ま、わりとありますね。

新居:ほぉ!

伊勢:たとえば、父親が亡くなって戸籍を見たら再婚していたことが分かった、ということもありました。親族一同だれも知らなかった。

新居:知らん人に遺産をもっていかれるじゃないですか!

伊勢:その通り。しかも、相手の女性はすでに父親の口座から現金をおろして持っている。その額、三千万としましょう。女性は父親の孫といってもおかしくない年齢。お金目当ての婚姻と疑われても仕方ない・・・

新居:ジャジャジャ~! ジャ・ジャ・ジャ・ジャ~ン!! 

伊勢:火曜サスペンス劇場(笑)。

新居:あのー、その時、伊勢警部はどうしたんですか?

伊勢:幸い刑事事件ではなかったです(笑)。相手の女性に電話しました。

新居:そんな電話かけるの、嫌だなあ。で、どんな話をしたんですか?

伊勢:僕たち税理士には、彼女が持ちだしたお金を差し押さえたりするような権限はないんです。ただ、そのお金はどういうお金なのかを伝えることはできます。つまり、あなたには確かに相続権がある、しかしその額はこれだけで、それに対して贈与税がこのぐらいかかります、まずは返金して遺族のみなさんと公明正大に話しあいましょう。

新居:なるほど、冷静に追い込んでいくわけですな。

伊勢:税理士の仕事はもちろんお客様ありきなのですが、当事者の方すべてに対してフェアじゃないといけないんです。法に基づいてみなさんが100%ではないにせよ、納得いただける道を地道に探す仕事なんですね。

新居:聞いてるだけで、ストレス溜まりそうです。

伊勢:会社経営にしても、遺産相続にしても、ベースには生身の人間の悩みがあるわけです。そこにお金が絡むと、常識ではありえない判断や行動が生まれたりもするんでしょう。

新居:大変な仕事を選ばれましたねえ。

伊勢:そうですね。でも、お客さんの悩みが解決したり、経営や人生の指針が決まったりして、感謝もされます。人間が元気になっていく姿を間近で見られる、というのはなかなか素敵な仕事だと思います。

新居:なるほどねえ。でも、やっぱりストレスの多い仕事には変わりはない。伊勢さんは、どうやって発散されてるんですか? たとえば、奥さんに愚痴を聞いてもらうとか。

伊勢:嫁さんには仕事の話は一切しません。

新居:えっ?

伊勢:守秘義務があるので、言っちゃいけないんですよ。「今日は疲れた・・・」「どしたん?」「・・・それは言えん」みたいな感じです。

新居:それ、ストレスに追い討ちかけてますね。そんなんじゃ、伊勢夫婦にも何が起こるか分かりませんねえ。

伊勢:いやいや、結婚してもう9年安泰ですし、大丈夫だと思いますよ(笑)。経営セミナーの講師をする時に「夫婦円満が、健全経営の基本です」と、よく説いてるんで、自分が離婚したらシャレになりません(笑)。

新居:でもここだけの話、伊勢さんも人間ですから、守秘情報をポロッと喋ってしまうこと、あるでしょ?

伊勢:それは、断じてありません。

新居:あのー、さっきの話は、大丈夫なんでしょうか。

伊勢:実は、脚色を入れてますんで問題ありません(笑)。

新居:さすが!

 

対談後記

税理士さんは「帳簿とにらめっこする人」というイメージが強いが、実は経営や遺産の相談など、様々な人間ドラマと遭遇する機会も多い。「企業が元気になれば、僕ら税理士も元気になれる。税理士って、元気をつくる仕事なんです」という伊勢さんの言葉は頼もしい。ちなみに「税にまつわる噂話をよく聞くと思いますが、ほぼ80%はウソだと思った方がいい」のだそうだ。遺言書の書き方や生前贈与の秘策も教えてくれたが、誌面の都合上書ききれない。興味のある方はマスエージェントまで(Tel. 088-632-6228)。くれぐれも、伊勢さんの家庭がサスペンス劇場にならないことをお祈り申し上げる。

 

◎Fumio Ise

昭和48年徳島市生まれ。税理士、行政書士。平成13年、(株)マスエージェント秋田会計事務所に入社。平成16年、税理士法人マスエージェント設立に参加。税務・M&A・経営コンサルティングなど、中小企業や医療機関の経営サポート業務には定評がある。