Dec 2011 « 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 »

050対談-10(ゼロ・ゴ・ゼロ2011年5月号)

とくしま業界人本音トーク

へえ~そうなんだ!?  第十回 金刀比羅神社 宮司 神東正典さん

文:新居篤志 イラストレーション:藤本孝明

 

人の心に土足で踏み込むことを使命とする不肖コピーライター新居篤志が、徳島で頑張るいろんな業界の面々に、飾らない本音を聞き出す連載対談シリーズ。第十回は、ブルースミュージシャンでもある18代目宮司、神東正典さんの登場です。

 

日本人である、ということ。

 

新居:神に東と書いて「かんとう」という姓。代々神職の家柄ということですか?

神東:そうです。社家(しゃけ)といいまして、私は18代目になります。

新居:神東さんは、ブルースマンとして今も徳島ジャズ・ストリートなどでも活躍されてるそうですね。僕は残念ながらそっち系が疎いので、今日は神社系の話を中心に聞いて良いッスか?

神東:もちろん。こう見えてもれっきとした神社の神主なんで(笑)。今、徳島県神社庁の広報・企画部長もやってますから、その方がありがたいです。

新居:ではいきなりですが、今の日本人の精神性についてどう思われますか?

神東:ほんま、いきなりですな(笑)。

新居:最近ね、そういうことにものすごく興味があるんです。若い時は古事記とか読んだことも無かったんですけどね、読んでみるとなかなか面白い。

神東:神話には日本人本来の気質というか、アイデンティティが書かれていると思います。

新居:わりと男女の交わりの話や陰部の話が、あっけらかんと出てきますよね。あれ、何なんでしょうか(笑)。

神東:それが、日本人ということです。

新居:日本人は、けっこうスケベということでしょうか(笑)。

神東:はい、スケベです。

新居:そう、はっきり肯定されると(笑)。

神東:言い替えますと「おおらか」ということです。日本の神社神道は自然崇拝が基本で、経典や戒律があるわけではありません。あるべきままを受け入れる、ということなんです。常日頃は自然を敬い、神を畏れ清貧に暮らす。けど年に一度の祭には神に捧げものをし、厳粛な式典を行い、その後に神様のお下がりとしてお神酒や食べ物をいただき呑み歌う。いわゆる「ハレとケ」が全ての事柄にあって、それが日本人の精神性の根幹にあると思います。

新居:そういえば結婚式もそうですよね。

神東:キリスト式や仏式で結婚式をあげても披露宴は必ずやる。会社の記念式典でも必ず宴会は外さない。そういうところが日本人的だと思います。

新居:この度の被災で、日本人の秩序正しさや忍耐強さが、海外メディアに賞賛とともに取り上げられました。

神東:まさに日本人が本来持っている美徳の部分だと思います。日本の戦後教育は、礼節とか畏敬の念よりも個人の自由とか平等という概念に重きをおいてきました。でも、全員朝礼や全校集会は今でも残ってますよね。全員が整列して、礼をして校長先生の話を聞く。こういうしつけというか訓練が、被災という大変な状況でも自然に活きるんだと思います。

新居:気をつけ!前に~ならえ!ってやつですね。あれ正直イヤだったなあ~(笑)。

神東:ま、それが本音です。でも建て前としてはやらねば・・・というのが日本人なんです。

新居:子どもの時って、どうしても感覚的に動きたいじゃないですか。ああいう型にはめられる感じがイヤでよく反発したもんですけど、不思議ですね、最近はそういう型の大切さみたいなものを感じるんです。伊勢神宮に行った時に、二礼二拍手一礼というのを実践したんですけど、とっても気持ちが良かったのを覚えています。

神東:以前うちの神社にね、毎朝ランニングに来られる方がいて、拝殿の前で腕立て伏せをしてそのまま帰っていくんです。ちょっと他の参拝の方に迷惑になりそうだったんで、その人にね、せっかく神社に来てるんですから、騙されたと思って手を合わせてみませんか、良いもんですよって言ったんです。妙な顔をされていましたが、しゃーないなあって感じで手を合わせていました。でね、その人、今じゃ毎朝手を合わせてます。

新居:分かる、そのランナーさんの気持ち。背筋をのばして柏手を打って礼をする。何を祈るわけでもない、ただそれだけのことなのに気持ちがスッとするんですよね。調子にのって、神社に行く度にパンパンやってたら、隣から「右翼がおる」って囁き声が聞こえてきました(笑)。

神東:祝日に国旗を出しているだけで、子ども達が「うわーこの家、右翼じゃあ」とか叫ぶご時世ですからね。困ったもんです(笑)。

新居:右翼とか左翼とか、ほんとどうでもいいですよね。

神東:はい、右左じゃなく日本人は本来「真ん中」ですからね。

新居:これからは、スケベであることも堂々と宣言しようと思います(笑)。

神東:ぜひ(笑)。

 

 

対談後記

高校時代、音楽に目覚め、一時はブルースミュージシャンとして東京で活動をしていた神東さん。近藤房之助、永井隆といった重鎮のバックバンド、数多のセッションをするなど、その活動ぶりは徳島の音楽ファンの間でも伝説となっている。お父様のご逝去により社家の跡を継ぐことになったわけだが、普通の宮司さんとの語り口とはやはり明らかに違う明快さやグルーヴ感があった。手放しで日本人は素晴らしいと礼讃するつもりはないが、日本人はもっと自分たちの良い面を知る必要があると思う。強みを知った上で、何ができるかを考える。ビジネスでは当たり前の思考や行動が、いま日本という会社の中で足りてない気がする。

 

◎Masanori Kanto

昭和32年鳴門市生まれ。國學院大學文学部神道科卒。徳島県神社庁教化委員会 企画部長 広報担当。今も「黒神(こくじん)」というバンド名で活動中。5月20日には服田洋一郎氏を迎えて金刀比羅神社にてライブを開催。ワンドリンク+おつまみ付きで前売チケット2,500円。お神酒無料。