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050対談-18(ゼロ・ゴ・ゼロ2012年3月号)

とくしま業界人本音トーク

へえ~そうなんだ!?  最終回 写真家 米津 光さん

文:新居篤志 イラストレーション:藤本孝明

 

人の心に土足で踏み込むことを使命とする不肖コピーライター新居篤志が、徳島で頑張るいろんな業界の面々に、飾らない本音を聞き出す連載対談シリーズ。最終回は、敬愛する写真家であり、今の僕をつくった恩師でもある米津 光さんの登場です。

 

 

真逆の視点に美は宿る。

 

新居:今日はスキャパー(行きつけのショットバー)での対談でなくてすいません。

米津:あのね、僕をアル中みたいに言わないでよ(笑)。新居さんでしょ、アルコールをガソリンにしてコピー書いてるんは。

新居:なんせ米津さんはスキャパーの「余市(ニッカ・ウイスキー)」を全部飲み干して、マスターに「申し訳ありません、在庫が切れました・・・」と言わしめた、伝説の持ち主ですから。

米津:よく言うよ、もともとグラス2杯分ぐらいしか残ってなかったんでしょ! このコピーライターは平気で嘘を言うんで皆さん気をつけてくださいね~。それと、駄洒落が多いんで注意してください(笑)

新居:さて枕はこの辺にいたしまして、本題です(笑)。キヤノン主催のカレンダー写真作家公募で一等賞を取られてから、もう5年ぐらいになりますかね。あれから仕事、かなり増えたんとちゃいます?

米津:いや、どうだろう・・・東京に行く機会は増えたけど。

新居:どんどん近づきがたい巨匠になっていってる感じで恐縮します。

米津:よお、言うわ(笑)

新居:最近は、メーカーや出版社主催のアマチュアカメラマン向け写真教室もされているそうじゃないですか。

米津:僕の写真教室はちょっと変わっててね、「60ワットの一般電球だけを使って作品を創りましょう」とか「何気ない風景を作品にしよう」とか。

新居:それ評判ええでしょ! 米津さんは話芸も達者だし、苦労して積み上げてきたテクニックも惜しみなく喋っちゃう人だから。

米津:話芸は達者じゃないけど、まあ、わりと喜んでいただけてるようです。

新居:この間、その写真教室の模様がYOU TUBEに上がってて観たんですけど、すごい盛りあがりですよね~。最後に米津さんの作品を二人の生徒さんにプレゼントするんですけど、その二人をどうやって決めるかというと・・・

米津:ジャンケン大会(笑)

新居:でね、うら若き女性の生徒さんがキャーキャー言いながらジャンケンがんばってたりして。この光景、一体何じゃろと思いました。米津さんとチャン・ドンゴンが、かぶって見えました。

米津:チャン・ドンゴンって誰?

新居:米津さんは知らなくていいです。それにしても、アマチュアカメラマン=オッサンというイメージがあったんで、なんとも羨ましい限りで。

米津:まあ、新居さんの好きな若い女性のことはさておき、写真教室で面白いことが分かりました。

新居:はい。

米津:だいたい僕が喋ることって、別の講師さんと真逆の話が多いみたいです。

新居:ほお~

米津:セオリーというかね、常識みたいなのが写真の世界でもあるんですけど、僕はあんまり鵜呑みにしちゃいけないって思ってるんですよ。

新居:たとえば?

米津:風景写真だと、晴天じゃないとダメみたいな固定観念があると思うんですよ。でもね、僕は曇りの方が断然いい。僕が撮りたいモノは、曇りの光の方が都合がいいから。この前、屈斜路湖で曇りの日に撮ってたらね、年配の方に注意された(笑)。

新居:なるほど(笑)。

米津:みんな綺麗な写真を撮りたいって思ってるでしょ。でもね、結局は公式に数字を当てはめるみたいなことをやってるんじゃないかな、と思うんです。セオリーに縛られて普通にやったら普通で終わる。作品にはならないと思うんですよ。

新居:はい。

米津:広告写真もそうですけど、僕は「ただ綺麗だけじゃない」モノを撮りたいって思ってます。さりげないものでも美しい見え方になる場合もあるし、不格好なものでもかっこいいと感じられるものがあると思うんです。

新居:アマチュアの人にその辺をどう伝えてるんですか?

米津:どうやったら綺麗に写せるか、ではなく、まず何を表現したいかを考えて、狙うモノを決めましょう、って。

新居:先生、もう少し具体的にお願いします。

米津:フレームの中に、撮りたいモノを大きく入れる。

新居:シンプルで含蓄深くて勉強になるなあ・・・。

米津:講師料1万円いただいときましょうか(笑)

新居:あの、こんど「余市」をいっぱいご馳走しますので。

米津:それ、いっぱいじゃなくて一杯のことでしょ(笑)

新居:ばれました?(笑)

 

 

対談後記

米津さんは、今も作品づくりのために忙しい仕事の合間をぬって、北海道や西表島へと足を運ぶ。その情熱はどこから湧いてくるのか。「やっぱりね、写真を撮るのが面白いし、好き」なんだそうだ。アーティスティックな作風とは対照的な、柔和で親しみやすい人柄、そして軽妙なトーク。この人と会ったら最後、みんな米津ファンになってしまうのだ。僕からすると、チャン・ドンゴンなんか目じゃないのである。

 

さて、唐突ですが今号で最終回となりました。拙い文章に最後までお付き合いをいただいた読者の皆様、ご登場いただいた18名のゲストの皆様、飛田編集長、そして藤本画伯には心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

 

Akira Yonezu

昭和31年生まれ。高校生の時から写真に魅せられ、様々な写真家やアーティストの作品に触発されつつ、独学で技術を磨く。フリーの広告写真家として徳島を基盤に全国的に活躍中。「流木」「New York」シリーズなど作品に対する評価も高く、国内外において多数の受賞歴を持つ。

 

Atsushi Nii

昭和40年吉野川市生まれ。香川大学法学部卒業後、ジャストシステムに入社。2001年にコピーライター・プランナーとして独立。そのきっかけは「コピーうまいね!」という米津さんの一言だった。が、その運命の一言を放った張本人は、すでに言ったことすら忘れている。