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無名の風景を、絵画に変えた。

無名の風景を、絵画に変えた。

~第59回全国カレンダー展「経済産業大臣賞」受賞・米津光氏特別インタビュー~

 

「エッ、これが日本?」「国道沿いから撮ったって本当?」

「水彩画のよう」「今まで見たことのない幻想的な風景写真」・・・。

無名の風景が高名な企業を唸らせ、全国の写真ファンにため息をつかせた。

そして昨年末、ついにその風景はカレンダー作品の頂点まで登り詰めた。

写真家米津光氏に、今とにかく目が離せない。

 

■風景も面白いなあ、と思い始めて・・・

徳島市在住で本誌050の表紙も創刊以来撮り続けている写真家、米津光(よねづあきら)さんが、昨年末に第59回全国カレンダー展の「経済産業大臣賞」(最高位)を受賞した。日本中の写真家やクリエーターが一度は手にしてみたいと憧れる垂涎の勲章だ。一昨年、キヤノンが初の取り組みとして企画した「カレンダー写真家公募」に選ばれてから、米津さんの破竹の勢いはとまらない。今年1月7日銀座でスタートした全国巡回の個展も、プロ・アマを問わず大勢の写真ファンを虜にしているという。

「2年半ぐらい前に、風景も面白いなあと思い始めて、仕事の合間に撮るようになったんです。しばらくして、キヤノンがカレンダーの写真作家を公募していると聞いたので、半年間撮りためていたものを出品しました。そしたら選ばれたって連絡があって。ほんと信じられなかった・・・。僕の写真(作品)ってね、自分でいうのもなんだけど、あんまり一般ウケする写真じゃないんよ(笑)。人と違うものを撮りたいって、いつも思っているから、どうしてもお口にやさしく食べやすい写真にはならない。作品は仕事と違って、僕の好きなことを自由に表現できるから、妥協もしたくない。これまでもいろんな賞はいただいてきたんですけど、こういう大きな賞には縁が無くて・・・。」

 

■驚いたキヤノン担当者たち

米津さんは24年前、当時の徳島では希少な広告専門のフリー・カメラマンとして立った。誰かに師事したことはない。ひとり黙々と徳島市のスタジオで被写体と格闘し、独学で技術を磨き続けてきた。

「写真は簡単にいうと光をどう見いだし、どうコントロールするかということ。どうやったら海外の一流写真家のような写真が撮れるのか、どうやったら人が驚き、感動するような写真を撮れるのか、ずっと考えてきました。アナログ(フィルム)からデジタルに時代は移りましたが、基本的に頭の中で思っていることはおんなじです。」

キヤノンが設定した撮影期間は、1年1ヶ月。65点の提出作品からカレンダーに使用する13点を選考したいという話だった。米津さんは、水を得た魚のように日本全国を駆け巡った。スタジオを空けた日はかるく100日を越える。膨れあがる機材費、交通費、宿泊費でキヤノンから渡された軍資金はとうに無くなり、他の仕事で得た売上をつぎ込んだ。結局、米津さんがキヤノンに提出した作品は150点。キヤノンの担当者たちは皆驚いた。作品点数の多さはもちろん、そのすべてがとてつもなく高い完成度だったからだ。

 

■ピュアな求道者の素顔

「もうね、これと思って撮り出したら、それ以外のことはどうでも良くて。キヤノンの担当者の方にしたら今回のプロジェクトは仕事の一環でしょうけど、僕からしたら100%作品づくり。儲かるとか儲からないとか余計ことを考えてたら、自由に動けない。近場の風景で済ませようなんて、しょうもないことが頭によぎったりすると、なんも面白くないから・・・。」

米津さんのものづくりに対するピュアさ、起爆力には、同じクリエーターの端くれとして本当に頭が下がる。そして、これほど接した人にあったかい印象を与える写真家を僕は知らない。米津さんがいる撮影現場は、いつもやさしい笑顔であふれている。180cm近い長身から振り下ろされる冗談は、一気に場の空気を和ませる。そして、いたずらも大好き。山ほど抱えた仕事で忙しいだろうに、エイプリルフールには毎年手の込んだ嘘メールを送ることも欠かさない。

 

■初の写真集に込めたもの

「風景写真を撮るようになって、いろんな人が僕の写真を褒めてくれるようになりました。被写体が自然だから安心感があるのかもしれませんね。で、これに味をしめて、写真集を作りました(笑)。まじめな話、もっと多くの人に僕の作品を見てもらいたかったし、いろんな評価を聞いてみたいな、と・・・。いかにも写真集っぽいつくりじゃないように、デザイナーの藤本孝明さんや新居さんに相当無理を言って、しかもボランティアでご協力をいただきました。それから、この写真集は、普段おつきあいいただいているたくさんの方々の支えがあって完成したと思っています。この場を借りて感謝を申し上げます。ありがとうございました。この写真集がもし評判良かったら、もっと味をしめてがんばると思いますので、またよろしくお願いします(笑)。」

名は体を表すとは、米津さんのような人のことをいうのだと思う。撮りためた写真の画像処理で徹夜になることもしばしば。明け方イスに座ったまま少し仮眠をとり、早朝また撮影現場へと向かう日々。「これはイスじゃなくて、実はベッドなんよ」と笑う米津さんは、まさに「夜寝ず」さんだ。そして「光」。見たことのない感動的な光を見いだすためには、自身に秘めた好奇心や可能性を常にストイックに探求せねばならない、と教えてくれる。

 

 

INTERVIEW     CL: あわわ 050(ゼロ・ゴ・ゼロ)