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essay

 

ウイスキーのように、年を積み重ねられたら

 

「時は流れない。それは積み重なる。」というウイスキーの名コピーがある。

上質という言葉から僕が連想するのは、この時の積み重ねである。

 

 

先日、都内にオープンしたばかりの高級ホテルに奮発して泊まった時のこと。

手荷物を持ってくれた若いサービススタッフさんが連発する言葉に興ざめした。

「どちらからお越しですか?」「飛行機ですか?」「お仕事ですか?」・・・。

「か?か?って、君は吉本新喜劇か!」とツッコミを入れたくなった。

身なりもビシッとしていて、言葉も丁寧。

どちらかというと第一印象は好感の持てる若者である。

けれど悲しいかな、彼に「上質さ」を感じることはできなかった。

マニュアル至上主義の弊害とも言えるけど、僕はこう思った。

彼には、まだ時間の積み重ねが足りないのだ、と。

若者だから仕方がない、というのは正しくない。

若くても、きちんとサービスを心得ている人もいるし、

いい年の大人でもダメな人はいっぱいいる。

要するに、どう生きてきたかがすべてなのだと思う。

 

逆に、話すだけで癒されたり元気な気分になれる人に出会うと、とても感動する。

年齢、性別、職業、国籍に傾向はない。

そういう人たちに共通するのは自由さ、謙虚さ、好奇心の強さだ。

固定観念に縛られない生き方で、奢ることもなく自然体で日々何かを積み上げている。

そのうちのお一人が書いた「天使の分け前」という題名のメールマガジンを紹介する。

~ウイスキーは樽に詰められ、貯蔵庫に寝かされる。

木肌を通して少しずつ静かに蒸発し新鮮な外気を吸っている。

樽の中では水とアルコールがなじみ合ってゆっくりと熟成していく。

ウイスキーの味、香り、色はここできまってくる。貯蔵樽から蒸発するウイスキーは

年間二、三パーセントといわれる。この減り分が「天使の分け前」である。

サントリーの貯蔵庫に寝ている樽は約160万樽というから、

ざっと計算してみても年間に何と5万樽近くも天使様がお飲みになることになる。

(バラ亭酒雑学楽座No.67より抜粋)~

送り主は、ウイスキーを、バーテンダーという仕事をひたむきに愛し続けた樋口茂樹さん。

五年前、癌で急逝された。今、樋口さんが天使たちとどんな上質な時間を過ごしているのか、

時々聞きたくなる。


COLUMN CL:あわわ 050(ゼロ・ゴ・ゼロ)「大人の上質」