Mon October 19, 2009 [ Comments: 0 ]
essay
ウイスキーのように、年を積み重ねられたら
「時は流れない。それは積み重なる。」というウイスキーの名コピーがある。
上質という言葉から僕が連想するのは、この時の積み重ねである。
先日、都内にオープンしたばかりの高級ホテルに奮発して泊まった時のこと。
手荷物を持ってくれた若いサービススタッフさんが連発する言葉に興ざめした。
「どちらからお越しですか?」「飛行機ですか?」「お仕事ですか?」・・・。
「か?か?って、君は吉本新喜劇か!」とツッコミを入れたくなった。
身なりもビシッとしていて、言葉も丁寧。
どちらかというと第一印象は好感の持てる若者である。
けれど悲しいかな、彼に「上質さ」を感じることはできなかった。
マニュアル至上主義の弊害とも言えるけど、僕はこう思った。
彼には、まだ時間の積み重ねが足りないのだ、と。
若者だから仕方がない、というのは正しくない。
若くても、きちんとサービスを心得ている人もいるし、
いい年の大人でもダメな人はいっぱいいる。
要するに、どう生きてきたかがすべてなのだと思う。
逆に、話すだけで癒されたり元気な気分になれる人に出会うと、とても感動する。
年齢、性別、職業、国籍に傾向はない。
そういう人たちに共通するのは自由さ、謙虚さ、好奇心の強さだ。
固定観念に縛られない生き方で、奢ることもなく自然体で日々何かを積み上げている。
そのうちのお一人が書いた「天使の分け前」という題名のメールマガジンを紹介する。
~ウイスキーは樽に詰められ、貯蔵庫に寝かされる。
木肌を通して少しずつ静かに蒸発し新鮮な外気を吸っている。
樽の中では水とアルコールがなじみ合ってゆっくりと熟成していく。
ウイスキーの味、香り、色はここできまってくる。貯蔵樽から蒸発するウイスキーは
年間二、三パーセントといわれる。この減り分が「天使の分け前」である。
サントリーの貯蔵庫に寝ている樽は約160万樽というから、
ざっと計算してみても年間に何と5万樽近くも天使様がお飲みになることになる。
(バラ亭酒雑学楽座No.67より抜粋)~
送り主は、ウイスキーを、バーテンダーという仕事をひたむきに愛し続けた樋口茂樹さん。
五年前、癌で急逝された。今、樋口さんが天使たちとどんな上質な時間を過ごしているのか、
時々聞きたくなる。