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対談連載-4(ゼロ・ゴ・ゼロ 2010年11月号)

とくしま業界人本音トーク

へえ~そうなんだ!?  第四回 志まや味噌  濱野正裕さん

文:新居篤志 イラストレーション:藤本孝明

 

人の心に土足で踏み込むことを使命とする不肖コピーライター新居篤志が、徳島で頑張るいろんな業界の面々に、飾らない本音を聞き出す連載対談シリーズ。第四回は老舗「志まや味噌」の暖簾を守る熱血社長、濱野正裕さんの登場です。

 

 

お味噌、バンザイ! 老舗四代目は元証券マン。

 

新居:食品業界って、景気とあまり関係なさそうですが。

濱野:そうやって言われるんやけどな、そんなことはないんよ。不況になったら外食もしない。外食せんかったら飲食店が繁盛しない。飲食店が繁盛せんかったら味噌もいらん・・・と、こうなる。

新居:お店売りと飲食店さんへの販売比率はどのぐらいですか?

濱野:店売りと通販が25%ぐらいで、残りが飲食店、県外デパート、食品メーカーさん等々のお得意先。

新居:あの~言いにくいんですが、うちの家、ほとんど味噌汁飲まないんです。

濱野:もう取材拒否じゃ(笑)。って冗談やけど、味噌が嫌いなわけじゃないんやろ?

新居:はい。妻のお父さんが味噌嫌いだったみたいで、味噌汁を飲む習慣が無かったみたいなんです。それで、あんまりつくりたがらないというか、めんどくさいんかな・・・。で、朝はパンとコーヒーだったりするでしょ。味噌汁を飲むタイミングが無い。

濱野:今はな、「夜に味噌汁」が主流よ。30年くらい前、東京に住んでた時に「東京人は、朝はパン+コーヒーで、夜に味噌汁を飲んでいる」って親戚から聞いて驚いた記憶がある。あの頃、徳島ではまだ「味噌汁は朝」というイメージが強かったから。30年経って、その習慣が全国的になったということやな。

新居:知らなかった・・・。

濱野:それからね、全国の20代女性に「お味噌汁は好き?」ってアンケートをとった結果がある。

新居:あんまり好きじゃないでしょ、若い女子。

濱野:ところがどっこい、95%以上が「好き」って。ホッとするとか、癒しのイメージが定着しとるみたい。

新居:フォローの風、吹きまくってますやん、社長!

濱野:ファー~

新居:OBです(笑)。

濱野:じゃなくてな(笑)。今はそういうええ風も吹いとるけど、業界にもいろんな試練があったんよ。学校給食、食生活の欧米化、減塩ブーム。

新居:なるほど。

濱野:最近はな、学校給食にも味噌汁がよく付くようになったけど、昔はパンと牛乳が基本やった。洋食の隠し味に味噌を使うのも今じゃ当たり前。いちばんキツかったのは減塩ブームやな。「塩分が多い=アカン!」というのが一人歩きして、味噌本来の良さや効能が影をひそめてしもうた。

新居:そういう苦労が風貌から滲み出てこないところが、社長の人徳ですな。

濱野:それ、褒めとん?(笑)

新居:いちおう(笑)。ところで、社長はもとから家業を継ぐつもりだったんですか?

濱野:いや全然。父親からは好きな仕事をすればええ、継ぐ必要はない、って言ってくれてたんよ。だから、証券会社に入って名古屋におった。

新居:証券マンからの華麗なる転身ですか?

濱野:カレーは好きやけど、華麗ではなかった。

新居:・・・あえて無視します。いろいろご苦労もあったんでしょうね。

濱野:まず、扱うお金の額に戸惑った。証券会社は億も当たり前、こっちは数百円からの世界。でも買ってくれると素直にうれしい。丁寧にありがとうございます、と頭を下げている自分に最初は違和感があったな。小さい時から味噌づくりを見ながら育ってきたから、モノをつくらない証券会社の仕事がどっか性に合わないと感じてたようにも思う。

新居:血ですな。

濱野:小さい会社やけど、工夫して新商品をつくったり販路を拡げたりするんが面白くてな、どうにかやってこれた。今の一押しは、身体に良い雑穀を取り入れた「五穀味噌」と「七穀味噌」。これな、うちが世界初や!と思うてネットで調べたら、すでに一社先を越されてたわ。

新居:二位じゃダメなんでしょうか?(笑)

濱野:かんまんけどな(笑)。おいしくてお客さんが喜んでくれたら、それでええんよ。

新居:ところで社長、そろそろ五代目襲名に向けて、画策されてますか?

濱野:高校生と中学生の娘がおるんやけど、僕も親父と一緒で、継いで欲しいとは言ってない。ただな、僕以上に娘たちは味噌づくりを見て育ってる。なんか意識はあるんちゃうかな・・・と思う。この前、うれしい話があって。

新居:はい。

濱野:長女が英語の弁論大会に選ばれて出たんよ。タイトル「VIVA! MISO」(和訳:お味噌、バンザイ!)。

新居:それ、泣けますなあ~。

 

 

対談後記

洒落の効いた歯切れのいいトークが楽しい濱野社長。もう十分に熟年世代ではあるが、その熱血ぶりは若き日の証券マン時代を彷彿させる。「量を追わず質を追う」ことを社是とし、「小さいなりに永く愛され続ける味噌づくり」を目指す。伝統を受け継ぐということは、守ることだけじゃなく、新しいことにチャレンジし続けることだと教えてくれた気がする。「志まや」の屋号にある「こころざし」は、この先どんな時代が来ようとも連綿と受け継がれていくのだろう。二人の娘さんと肩を並べ、「志まや」の名を海外に轟かせる日も夢ではない。「志まや」製フリーズドライの味噌汁を飲みつつ、そう思った。

 

◎Masahiro Hamano

昭和34年徳島市生まれ。大学卒業後、大手証券会社に就職。27歳の時、家業を継ぐことを決意。以降「志まや」ブランドの向上に全力を注ぐ。本店(市内吉野本町)、そごう徳島店には、「志まや」の味を愛するあらゆる世代のファンが、県外からも訪れる。