Jun 2010 « 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 »

essay

ほろ酔いマラソン談義の巻

■走った後は、酒と人が恋しい

ランナーって、飲み助さんが多いと思う。男性に限らず、「走った後のビールは最高!」なんて言う女性にもよく出会う。加えて、ただ飲むだけじゃなく、同じ大会を走ったランナーとマラソン談義をしたくなるのもサガですな。うちに帰って、家族に頑張ったよって報告しても、「あ、そう」ぐらいで終わったりして、なんかモヤモヤする。やれ、あの坂はキツかった、エイドの食いモンが無くなってたよ~、腹の出たカブリものに抜かれてねえ・・・なんて話、走ってない人にはまったくつまらないからしょうがない。でもランナーは、そういうのを酔っぱらって延々やりたいんだなあ。今年のとくしまマラソンは、行きつけのショットバー「SCAPER」のマスター小里氏が初参戦。こりゃ行くしかないぜ、って感じで、3回連続出場となったデザイナーの藤本氏を誘い、マラソン翌日の18時30分に集合。なんせ初出走のマスター、足腰が筋肉痛でさぞかし妙な動きをするだろうと内心期待してたんだけど、そこはプロ。いつも以上に凛として得意の「くの字」姿勢でシェーカーを振ったりする。「やっぱり仕事の筋肉ってのがあるんですなあ」と藤本さん。「仕事の筋肉」って表現に、これまた感心しつつ、「カンパーイ!」。

 

■阿波踊りのDNA

「とくしまマラソンって、阿波踊りに似てませんか?」「ほぉ~」と感嘆する僕らにマスターは続ける。「去年僕は、ただの見る人だったんですけど、実際走ってみて、こっちがやっぱ楽しいなぁ、って。これって、阿波踊りでしょ。それに、なんで沿道にあんなに人が来るのかって思ったんスけど、あれは祭り見物の感覚ちゃいますか」。職業柄か、確かな洞察力おそるべし。「走る阿呆になろう!ってコピー、あれはパーフェクトっすね」と藤本さん。「でしょ!」と僕。酒が入ると謙虚さもへったくれもない。今日のマスターは、感度が素晴らしいと思って、もっと話を聞き出そうとする。「そういや、ずっと音信不通の知り合いが、沿道に何気に立ってて、ああ生きとんやなあって思いました」「それで?」「ただ、それだけです」。どんな感想やねん!と突っ込みながら、ここでも一つの真実を発見。応援する人は、走る知人をなかなか探せないけど、ランナーにはいろんなものがよーく見えている(トップランナーがどうなのかは分からない)。

 

■人間ドラマに遭遇する

走る阿呆たちが見ている光景は、沿道に限らない。藤本氏曰く「今年、チャレンジゼッケンというのがあったでしょ。あれにね、4:22:17って書いたんよ。息子の誕生日と年齢にひっかけて、目標にしたんやけどね。後半、それに気づいたランナーが声をかけてくるわけ。『間に合わんぞー!』 とか『はよー行かんと!』とか。あれは、正直キツかったなぁ」。ランナーは、フレンドリーな人が多い。ただ、そのフレンドリーさがたまに暴走することもある。「そういえば・・・」とマスター。「僕の後ろで走っていた標準語の夫婦ランナーがいたんですが、奥さんが、ずっと愚痴みたいなことをボソボソ言ってたんスよ。そしたらいきなり『ずっと我慢してたけど、もう腹立った! オマエいい加減にしろっ!』って旦那さんが大声で叫んで・・・。周りのランナー、みんなドン引きでした(笑)」。マラソンという長丁場を走っていると、いろんなドラマが待ち構えている。それは当事者には失礼だが、たいてい笑える。

 

■ハイタッチの魔力

マラソンの隠れた楽しみというか、お約束というか、元気の素が、沿道の見知らぬ人とのハイタッチだ。最初は、恥ずかしくてできないものだが、慣れると待ち構えている人に寄っていったりするから不思議。走るって、本当に単調でしんどくて孤独な行為だから、普段は気恥ずかしい「人とのふれあい」に素直にジーンと来たりするんだろう・・・。「ランナーの手ってね、汗はかいてるし、エイドでいろいろ取ってるからベトベトしとるやん。ちょっとウゲッて顔しとる子供もおったよ(笑)」と藤本さん。決して、しんみりモードに突入しないのが酔っぱらい達の真骨頂である。いずれにしても、とくしまマラソンは日本有数の”ハイタッチ天国”だと思う。これは、とくしまマラソンの誇れる魅力だし、県民の魅力とも言える。ちょっとベタベタするとは思いますが、引き続き沿道の皆様にはよろしくお願いしたい。

 

■かくして夜は更ける

「来年も出る?」とマスターに聞くと、「出たいですねえ」と言う。「自分の年齢(44歳)からね、まだ伸びそうな感じがするスポーツって、マラソンかなって思いますし、楽しいってこともよく分かりましたから」。酔ってない人は、発言がちゃんとしている。「来年は、新居さんを抜く気でしょ」と藤本さんが合いの手をいれると、「実は、今年も抜けそうな気がしてたんですけど、もし新居さんより早くゴールしたら、人間関係がギクシャクしそうで困るなあって思ってました」。どこまでも変わった角度で思考する人である。「いやぁ、その妄想よく分かるなあ・・・」と藤本さん。「僕もね、レースの途中、このままのペースで行くと、かなり余裕があるぞ。ゴールテープの前で5分ぐらい足踏みしたらおもろいなぁ、って(笑)」。そういう妄想も含め、今年のキャッチコピーは「自分伝説をつくろう!」にして正解だった。マラソンは、あまりにもしんどくて、走っている途中は、「もう二度と走らんぞー!」と誓うのだが、こんな談義を重ねつつ、また次の大会に思いを馳せていたりする。ふと「何で、走るんでしょうねえ・・・」とつぶやいたら、「・・・マスター、おかわり!」と藤本さん。かくして夜は更け、マラソン談義は延々と続くのであった。


COLUMN   CL: あわわ「050 ゼロゴゼロ」 2010年6月号  VIVA ! とくしまマラソン特集号