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対談連載-6(ゼロ・ゴ・ゼロ 2011年1月号)

とくしま業界人本音トーク

へえ~そうなんだ!?  第六回 藍染作家  林 広さん

文:新居篤志 イラストレーション:藤本孝明

 

人の心に土足で踏み込むことを使命とする不肖コピーライター新居篤志が、徳島で頑張るいろんな業界の面々に、飾らない本音を聞き出す連載対談シリーズ。第六回は藍と自然と吉野川をこよなく愛する藍染作家、林広さんの登場です。

 

 

ガラス越しの、美しき妄想。

 

新居:藍染作家の方って、徳島にたくさんいらっしゃるんでしょうか?

林:えーと・・・6人かな。

新居:なんとなく納得する数字ですね。

林:染めをやっている人は他にもいらっしゃいますが、デザインから全部やってる人は、確かそのぐらいです。

新居:僕もそういう希少人種の一人なもんで、よく聞かれるんです。食っていけてるの?って。

林:みんな、そう思うでしょうね(笑)。

新居:いちおう食っていけるから、こうやって生きてるんですけどね。どうでしょう、林さんは儲かってますか?

林:ま、それなりに(笑)。

新居:作品はどこで販売されてるんでしょうか。

林:大阪で何店か展示販売していただけるところがあるのと、商業施設や公共施設のアートワークとして、発注をもらったりもしています。

新居:あの~ちなみに、いかほどぐらいなんしょう。

林:そうですねえ、例えばこれだと(壁に掛けている作品を指して)20万ぐらい。

新居:ほほお! この原稿料の○○ページ分ですね!(注:編集部カット)ところで、そもそもこの世界に入られたきっかけって何ですか?

林:ちょっと変わってるんですけど、ある出会いがあって、シンプになろうとしてて・・・。

新居:は?

林:キリスト教の神父です。

新居:ああびっくりした~。新婦かと思いました(笑)。最近、立て続けにゲイの方に遭遇したもんで。

林:そっちの趣味はありません(笑)。高校時代に習ってた絵の師匠が、クリスチャンでして。その方の影響もあって、そちらの道を目指していたんです。でもね、カトリックなんで神父になったら一生結婚できないんですよ。

新居:一生、新郎になれない・・・すんません、ひつこくて。

林:はあ(笑)。やっぱり一生独身は嫌やなと思って、絵の勉強をしてたことを活かして何かできることを、と考えたんですけど、なかなか思い当たらず。その時は県外にいたんですけど、徳島には藍染があるなあと、ふと思ったんです。

新居:ほおお。

林:藍染のことはほとんど何も知らなくて、「消えゆく伝統工芸」ぐらいのイメージしかなかった。けどやり始めると面白いし奥が深いんで、はまったんですね。

新居:なるほど。

林:昔の日本人の知恵ってほんますごいなあと思い知らされました。藍染の技法はすべて過去から伝承されてきたもの。なんでこんなことを先人は知っていたのか、なんでこうなることが分かったのか、そんな驚きの繰り返しでした。

新居:藍は色の美しさもありますが、虫除けやアトピーにも効果があると聞いたことがあります。

林:昔の人はマムシ除けにも使ってたそうで。科学的には立証できてないのもありますが、まだまだ知らない効果効用がいっぱいあるんやと思います。自然から人間が受けている恵みってね、知れば知るほど大きいんです。それと、藍は生き物ですからね、気むずかしいところもありますけど、こっちが真剣に接するとそれ以上のものを返してくれます。藍と接してきて、気も長くなりました。老化現象もあるんやろうけど(笑)。

新居:伝統技術を継承するってことは、そういう神秘的なモノを感じながら生きるってことなんですね・・・。僕みたいな化学汚染系には、縁遠い世界感です。ところで、お弟子さんとかはいらっしゃるんですか?

林:今のところいません。それも自然任せでええかな、と。この工房、道路側をガラス張りにしてるんですけどね。実は近所の子ども達に藍染の仕事を見てもらえたらええかなあ、という思惑もあったんです。ほんまはちょっと気恥ずかしいんやけど(笑)。

新居:それは素晴らしい! そういう記憶って、大人になってからひょっとした拍子に思い出したりしますからね。徳島を離れて壁にぶち当たった時に、ふと林さんの背中を思い出したりする子が出てきますよ、きっと。

林:そういうの、あったらええですね。

新居:ある日突然ここに訪ねてくるんですよ、なんか見覚えのある青年が、キリっとした顔して。で、弟子にしてください!

林:うれしいなあ・・・。でもそん時は、もうあの世にいるかも(笑)。

新居:ちゃん、ちゃん(笑)。て、そんなこと言わず、その日が来るまでがんばってくださいよ~。

 

対談後記

「阿波藍を育んできた吉野川にも感謝せずにはいられません」と語る林さん。吉野川を守るボランティア活動にも積極的に参加してきた。その昔、阿波の代名詞として一世風靡し、巨万の富をもたらした阿波藍。その経済的な役割は終焉を迎えたが、ストレスフルな現代人を癒す役割は、逆にますます高まっているのかもしれない。思えば、高度経済成長期には、いろんな工場や作業場がむき出しに見えていて、興味津々の子ども達が目を輝かせていた。そんな光景が消えてしまったことも、大手企業や有名企業にしか就職したがらない若者を生んでいる原因なんだろう。ガラス越しで作業に没頭する林さんの姿は、やっぱりかっこいいと思う。

 

◎Hiroshi Hayashi

昭和28年徳島市生まれ。藍色の美しい色合いをモダンな構図で表現する藍染作家。徳島県藍染研究会会長。昔の長屋のように人との触れあいを大切にする、というコンセプトを持った集合住宅「コレクティブハウスなじみ」の管理人でもある。工房はその一階にある。