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050対談-12(ゼロ・ゴ・ゼロ2011年7月号)

とくしま業界人本音トーク

へえ~そうなんだ!?  第十二回 バー・スキャパー 小里博久さん

文:新居篤志 イラストレーション:藤本孝明

 

人の心に土足で踏み込むことを使命とする不肖コピーライター新居篤志が、徳島で頑張るいろんな業界の面々に、飾らない本音を聞き出す連載対談シリーズ。記念すべき節目の第十ニ回は、敬愛する同世代バーテンダー、小里博久さんの登場です。

 

 

酔えば、昭和が咲き誇る。

 

新居:とりあえずビールで。

小里:はい(笑)。

新居:マスター、ここ何年になります?

小里:え~と、7年ぐらいですね。

新居:飲食業ってね、5年持つ確立が30%って、むかし誰かから聞いたことがあるんやけど。

小里:そのぐらいかもしれませんね。

新居:選ばれた店なんやねえ~ここは。

小里:まあ、そうっすかねえ。

新居:褒めてんだから、もっと喜んでよ。

小里:素直に喜べないです。

新居:どして?

小里:言葉にウラがありそうで(笑)。

新居:ドキッ。まあ、いいや。マスター、バーテンダー歴は何年?

小里:25年ぐらいです。

新居:どういうきっかけ?

小里:九州の大学に行ってたんスけど、バイト先がたまたまショットバーだったんで。

新居:たしかマスターはミュージシャン志望だったよね。

小里:そこ、突いてきますか(笑)。

新居:なんで東京へ行かんかったん?

小里:福岡に「照和(しょうわ)」っていうライブハウスがあるの知ってます?

新居:チューリップ、甲斐バンド、陽水を生んだ聖地やろ?

小里:そうです。「照和」に憧れて九州です、ハイ。

新居:ちなみに誰をめざしてたん? 

小里:・・・恥ずかしながら、長渕です。

新居:乾杯~♪ってかあ。バーボンをロックで。「照和」には実際行ったん?

小里:ええ行きました。でも、それが・・・

新居:どしたん。

小里:もう完全にね、終わった感があって・・・

新居:ほお。

小里:待ち合わせ場所に遅れて着いたら誰もいなかった時の感じ、というか。

新居:そして~僕は途方にくれる~♪

小里:酔ってますか(笑)。

新居:酔ってないよ、仕事中だから。で、とにかくミュージシャンは諦めたんやね。でも、マスター歌うまいし、ビジュアルもイケてるし、頑張ってたらデビューできてたかもしれんのに。惜しいなあ。

小里:ほんまにそう思ってますか。顔、笑ってますよ。

新居:いやいや、ほんま何でなん?

小里:訴えたいモノが無かったんで、僕には。

新居:ほお~なかなかガンチク深いこと言うねえ。でも、こういう仕事をやね、25年もやってると、そろそろ訴えたいものが出てきたんちゃう?

小里:・・・

新居:あるやろ? 一人で飲む男の悲哀とか、恋に悩む女性の赤裸々な心情とか。

小里:完全にド演歌じゃないですか。

新居:長渕なんか、演歌みたいなもんやろ?

小里:ひどい・・・

新居:あと、誰好きなん? それと、ロックおかわり。

小里:尾崎ですね。

新居:また会う~日まで~♪

小里:紀世彦じゃなく、豊です。

新居:盗んだバイクで~捕まった~♪

小里:ほんまファンが聞いたら、どつかれますよ(笑)。

新居:イカン、今日は対談やっちゅうの。マスター、店が繁盛する秘訣って何?

小里:・・・さあ~ねえ。

新居:あのね、それじゃ対談にならんのよ。ムーディーなインテリア、美味いカクテル、お洒落な会話とかさあ。

小里:あ、それです、それ。

新居:マスター、俺をバカにしてる? ロックもう一杯。

小里:ま、会話で言うとですね・・・

新居:なになに?

小里:お客さんが言ってほしいことを言おうかな、って思ってます。

新居:?

小里:新居さんが「不倫してる」って話をするとしますよね。

新居:こら、してへんぞ! したいけど・・・

小里:例えば、ですから。そしたらね、「不倫は良くない」なんていう正論は言わんのです。それは、誰か別の人の役割だから。

新居:じゃあ、なんて言うん?

小里:ま、黙って相づちを打つか、言っても「恋っていいっスよね」ぐらい。

新居:ほお~すごい! マスターお見それしました。

小里:そんなにすごい話じゃないと思いますが。

新居:すごいよ! ガンチクが、なんちゅうか溢れかえってるよっ!

小里:あの~こういう話で対談になるんでしょうか。

新居:ええんちゃう、12回記念やから。ロックおかわり!

 

 

対談後記

スキャパーのカウンターで飲んでいると、膝を打つほどの感動や感銘を受けることが多い。が、翌日はそれが何だったのかほとんど覚えていない。酔っぱらいとは本当に困ったものだ。そういうヤカラに夜ごと25年間、対峙してきたマスターは敬服に値する。ショットバーというものの魅力は酒よりも、むしろマスターの人柄にあると思っている。小里さんは、余計なことを言わない。カウンターでシェーカーを振りながら、何も足さず、何も引かない、シングルモルトのような味わい深いトークを展開する。かつて「スキャパーは僕たちの幸せである」という名言を呟いたのはイラスト担当の藤本画伯。マスター、引き続き迷惑をかけますが、よろしく!

 

◎Hirohisa Kozato

昭和40年徳島市生まれ。九州の大学在学中より「サントリー・ジガーバー」でバーテンダーとしての腕を磨く。2004年仲之町1丁目にバー・スキャパー開業。女性一人でも安心して飲めるという評判もあるらしい。あまり知られてないが歌は抜群にうまい。ホームページはこちら:scaper.betoku.jp