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対談連載-5(ゼロ・ゴ・ゼロ 2010年12月号)

とくしま業界人本音トーク

へえ~そうなんだ!?  第五回 カフェ・ケストナー  佐藤文昭さん

文:新居篤志 イラストレーション:藤本孝明

 

人の心に土足で踏み込むことを使命とする不肖コピーライター新居篤志が、徳島で頑張るいろんな業界の面々に、飾らない本音を聞き出す連載対談シリーズ。第五回はコーヒーに身を捧げるカリスマ・マイスター、佐藤文昭さんの登場です。

 

 

お豆はもう、死んでいる!?

 

新居:7、8年前だと思いますが、家で何気なくTVを見てたら佐藤さんがコーヒー教室みたいな設定で出演されていました。

佐藤:ケーブルTVですね。

新居:その時、佐藤さんがこう言われたんです。「コーヒーは好きじゃない、という方いらっしゃいますよね。あれ当然なんですよ。だいたいは、飲んだコーヒーの豆が腐ってるんです」。僕ね、それがケンシロウの「お前はもう死んでいる」みたいに聞こえて、飲んでた缶コーヒーを「ヒデブ~」って叫びながら吐きそうになりました。あれって、ホンマなんですか?

佐藤:ええ本当です。コーヒー豆は果実の種ですから当然腐ることもあります。だけど不思議なことに豆が腐る、というイメージがみんなの頭の中にほとんどないんですね。腐った豆やカビの生えた豆を焙煎しても見た目は分からないし飲むと嫌な味になる。けどそんなもんかな、って感じでずっと飲まれてきたんです。

新居:恐ろしい話や・・・。

佐藤:缶コーヒーにいたっては高温で熱処理しますから、風味も香りも全部すっとびます。豆の状態うんぬん以前の話。

新居:でも香りはしますよ、缶コーヒーも。

佐藤:最初に人工の香料を足している。

新居:ヒデブ~

佐藤:試しに、これ飲んでみてください。

新居:・・・あっ、ちゃう! ノドを通った後さっぱりしてる。いつも砂糖とミルクを入れないと飲めないんですけど、これやったらいけます!

佐藤:でしょ。それがコーヒー本来の味です。

新居:な、なにが違うんでしょうか。

佐藤:まず鮮度です。野菜と同じように、鮮度はおいしさの重要なポイントです。それから海外からドサッと届く豆には、虫喰い豆もあれば小石が混ざっていることもあります。農作物なんで当然なんですが、そういうのを丁寧にハンドピックで取り除く必要があります。豆のサイズを均一に揃えるのも大切。焙煎の火の通り方が変わってきますんで。

新居:すごい手間ですなあ・・・。

佐藤:そういう手間仕事を外部の業者任せで適当にやってると、自ずと適当なコーヒーになるということです。

新居:自家焙煎ってそういう意味だったんだ。

佐藤:自家焙煎を掲げる店が、すべてそういう手の込んだ作業をしているかと言われると、それまた疑問なんですけどね。

新居:自分の舌で確かめるしかない。

佐藤:その通り。コーヒーが苦手という人は、実は味覚がしっかりしている人かもしれません。マズいから舌が受け付けない。

新居:コーヒーって味にお金を払うんじゃなくて、それを飲むムードに金を払ってきた気がします。「ダバダ~」なひとときを買ってきたというか・・・。

佐藤:懐かしいですね「ダバダ~」(笑)。

新居:コーヒーを本格的にやる前は何をされていたんですか?

佐藤:料理人です。

新居:なるほど、だからコーヒーの味が気になったんですね。

佐藤:食材の生産地や鮮度にこだわるのは料理人の性分ですが、食後に出すコーヒーがどうも変だと思ったのがきっかけで、勉強するうちにのめりこんでしまったんです。

新居:一杯のコーヒーに人生をかける、というのはシブい。

佐藤:そんなカッコいいもんじゃないですけどね(笑)。でもやってきて思うんですけど、これからはワインと同じようにコーヒーも「味」で選ばれる時代になってくると思います。どこでどのようにつくられて、どういう品質管理がなされて、どう焙煎して、どう淹れるか。そういったことに皆さんがもっと興味を持つようになるんじゃないかと期待しています。

新居:なんか分かります。さっきいただいたコーヒーを飲むと、僕でさえコーヒーを語りたくなりますもの。ところで、この豆はどんな豆なんですか?

佐藤:パナマのドンバチさんが作ったゲイシャという豆です。

新居:あの~、僕が知らないと思って騙そうとしてませんか? ドンパチもゲイシャも好きな世界ですけど。

佐藤:いや本当にゲイシャという品種があるんです(笑)。ドンパチさんも実在の農園主です。

新居:し、失礼しました。

佐藤:好いた惚れたはゲイシャを飲んで語りましょう、ということです(笑)。

新居:ヒデブ~(笑)。

 

対談後記

佐藤さんは良い豆を求めて海外の生産地にまで足を運ぶ。ニカラグアの農園を訪ねた時は、珍しい日本人がやって来たということで大歓迎されたらしい。「安く買い叩いたり、値を釣り上げることは一切考えていません。この村のコーヒー豆と長くつきあいたいだけです。今まで以上に良い豆づくりに取り組んでいただき、私の店へ送り続けてください」と言ってその農園と契約を結んだのだそうだ。「子ども達の土産にね、4色ペンを百円ショップでいっぱい買って持って行きました」と笑う佐藤さん。ニカラグア・ヒノテガ市の名誉市民として表彰されたのも頷ける。こんなピュアで熱く優しい男が、この徳島に住んでいることを誇りに思う。

 

◎Fumiaki Sato

昭和32年徳島市生まれ。料理人時代、食後に出すコーヒーに疑問を抱き東京の名店「カフェ・バッハ」のオーナーより教示を受ける。2000年川内町に「カフェ・ケストナー」開業。焙煎やコーヒーに合うケーキをさらに追求すべく、現在敷地内に工房を建築中。