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対談連載-1(ゼロ・ゴ・ゼロ 2010年8月号)

とくしま業界人本音トーク

へえ~そうなんだ!?  第一回


人の心に土足で踏み込むことを使命とする不肖コピーライター新居篤志が、

徳島で頑張るいろんな業界の面々に、飾らない本音を聞き出す連載対談シリーズ。

記念すべき第一回は建築界の若きエース、鳥羽知夫さんの登場です。

 

 

「劇的ビフォーアフター」を斬る!

 

新居:建築業界は冷え込んでるみたいですが、いま忙しいですか?

鳥羽:おかげさまで、ウチの事務所はなんとか元気にやってます。

新居:それは、すごいねえ。やっぱりオレも建築家になったら良かった。

鳥羽:・・・相変わらず、ほんま心にも無いことを(笑)。

新居:そんなことないよ。オレ、建築家に憧れてるから。

鳥羽:はい、はい。

新居:でね、唐突ですが、テレビ番組「大改造!! 劇的ビフォーアフター」ってあるでしょ。あれってプロから見てどうなの?

鳥羽:実は12回しか見たこと無いんです。カンタンにいうと嘘くさい印象というか。

新居:けっこう面白いと思うけどなあ。カミさんなんか、感動して涙ぐんだりしてるよ。

鳥羽:あのー、たしか建築士のことを、妙な呼び方しますよね。

新居:リフォームの匠!

鳥羽:その時点で、嘘くささ全開でしょ(笑)。それにあのナレーション・・・

新居:「なんということでしょう!!」サザエでございま~す。

鳥羽:あのコメント、強引すぎます。冷静に思うんですけどね、あれで本当に住む人は満足してるんだろうか、って。ほとんど打ち合わせもせず、途中経過も知らされずに、いきなりお婆ちゃんの形見が食卓のガラステーブルの中に埋め込まれたりして。嫌な人もいると思うんやけどなあ。

新居:たしかに「こんなリフォーム、私はイヤ!」っていう人が出てきた方がリアルだわな。

鳥羽:あと、収納や組立式の家具がやたら多くてトリッキーというか。忍者屋敷か!って突っ込みたくなります。

新居:あなた、見てない割によく知ってるねえ。

鳥羽:要するにですね、ああいうやり方は現実ではありえないってことです。作り手の勝手な思い込みだけでリフォームしたら、住む人は迷惑ですよ。エンターテイメント番組としては面白いかもしれませんが、僕は見てるとちょっとイライラします(笑)。

新居:ついでに言うと、リフォームの匠は必ず家具工場とか旋盤工場とかに行って、なんか変なカタチのものを自分でつくっちゃう。念のため聞きますが、ああいうこと鳥羽さんもやるの?

鳥羽:できるわけないでしょ! ノコギリまっすぐ引けないですから(笑)。なかにはね、そういう器用な建築士さんもいらっしゃるかもしれませんが、普通はねえ、無いでしょうねえ・・・。

新居:でも、あういう番組があってね、建築士に家を建ててもらおうとか、リフォームしてもらおう、っていう気運が高まった気がするけどね。建築デザイナーはスゴいっていう刷り込みがなされたわけだし。「鳥羽先生、ここはひとつお任せします」みたいなお客さん、増えたんじゃない?

鳥羽:最初に「お任せします」っていわれて、最後まで任せてくれたためしはありません(笑)。

新居:そうなの?

鳥羽:そりゃそうですよ。高い買い物ですし、思い入れもあるでしょうし、いろいろ口を挟みたいことがあって当然ですよ。

新居:でもここだけの話、あんまりリクエストが多い客は嫌じゃない?

鳥羽:いや逆ですね。リクエストの多い人ほどありがたいし、やりやすい。条件があっての建築ですから。

新居:というと、やりにくい人は・・・

鳥羽:思っていることを素直に喋ってくれない方。

新居:じゃあね、鳥羽先生。

鳥羽:トバ先生って、やめてください。演歌の大御所じゃないんですから。

新居:もとい。鳥羽さんに依頼する時にね、ヤル気を奮い立たせる「殺し文句」って、どんな言葉?

鳥羽:あんまり深く考えたこと無かったですねえ。

新居:せっかくなので、読者PRもかねて考えてみてください。

鳥羽:自分の夢をカタチにする、手になってください! これ、どうでしょう?

新居:・・・あなた、手でええの?

鳥羽:もちろん!

新居:そんな恥ずかしいこと、まともな人間は、言わんよ(笑)。

 

対談後記

同じテレビ番組でも視点が変わると、こう見えてるんだなあ・・・としみじみ思わされた鳥羽さんのお話。リーマンショック以降、徳島の建築業界はずっと冷え込んでいると聞くが、鳥羽さんの事務所は「なんか、妙に忙しい・・・」のだそうだ。「建築家というより、まだ建築士なんです、僕は。」という鳥羽さんの謙虚な姿勢が、建築に夢を託す施主の皆さんに、しっかりと届いているのだろう。仕事って、やっぱり人柄なんだなあとつくづく思う。鳥羽さんには面と向かって言えないけれど、僕はこういう建築士に家を建ててもらいたいと思う。「手になってください!」とは、やっぱり恥ずかしくて言えないけれど。

 

◎Tomoo Toba

昭和42年徳島市生まれ。一級建築士。平成14年、鳥羽知夫建築設計事務所を

徳島市に設立(平成18年に株式会社へ改組)。住宅・店舗の設計を中心に幅広く活動。建築の目線から街づくりを提案するボランティア集団「公共建築学団」設立メンバー。