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050対談-16(ゼロ・ゴ・ゼロ2011年12月号)

とくしま業界人本音トーク

へえ~そうなんだ!?  第十六回 番匠中山 代表取締役 中山康博さん

文:新居篤志 イラストレーション:藤本孝明

 

人の心に土足で踏み込むことを使命とする不肖コピーライター新居篤志が、徳島で頑張るいろんな業界の面々に、飾らない本音を聞き出す連載対談シリーズ。第十六回は木の心を今に伝える宮大工、中山康博さんの登場です。

 

木の龍の背を追って。

 

新居:屋号の番匠(ばんしょう)というのは、どういう意味なんでしょうか。

中山:かなり昔、日本で木造建築に関わった職人のことを番匠と呼んでいたそうです。

新居:いつぐらいのことですか。

中山:中世の頃、今から1000年ぐらい前ですかね。

新居:ほお~。

中山:建設というと土木も含まれますし、幅が広すぎるかなと思って番匠中山にしました。

新居:いいネーミングっすねえ。

中山:ありがとうございます。

新居:ホームページを拝見して、住宅以外にお寺や神社も建てる宮大工さんだと知りました。

中山:はい。先々代、つまり私のお祖父さんが宮大工の棟梁でして、私が3代目として継いでおります。

新居:よく拝殿に龍とかの彫刻がありますよね。ああいうのも創られるのですか。

中山:はい。祖父がその名人と言われた人でした。死ぬ前日まで龍を彫ってましてね、その背中を見ていた記憶があります。私が言うのもなんですが、すごい人やったと思います。

新居:かっこいいっすねえ。僕は手先が不器用なんで憧れますなあ。で、そういう匠の技というのは、どうやって教えてもらったんですか?

中山:基本的には「見て習え」です。

新居:ああしろこうしろ、とかは無かったんですか?

中山:まあ、職人の世界ですからね。

新居:実はね、うちの親父も大工の棟梁をやってまして、若い職人さんが住み込みで働いてたりしてたんですが、指導している風景を見たことないんです。不思議な師弟関係やな、と子ども心に思ってました。中山さんのところにも若い職人さんがいらっしゃると思いますが、やっぱそういう教え方なんでしょうか?

中山:いえ、今はこっちから「こうなんよ~」と言って教えています(笑)。

新居:ほんまっすか(笑)。

中山:今の若い子たちは仕事の選択肢がいっぱいありますからね。きちんと言葉にして教えてあげないと、やる気がなくなってすぐ別の仕事にいってしまいますよ(笑)。

新居:なるほど・・・うちの親父が廃業した理由が分かった気がします(笑)。ところで、中山さんに家を頼む人ってどんな人なんですか? やっぱ超お金持ちの方々ですか?

中山:いやいや、そんなことはありません。木の家に住みたいっていうところは共通していますが、年代も職業もさまざまです。

新居:僕も木の家に住みたいっていう気持ちはあるんですけど、本当のところ、どこでどうやって造ってもらうのが理想的なのか、答えが見えないんですよ。

中山:今は大手の住宅メーカーも木の家を提案してますし、いろんな選択肢がありますよね。ただ、私は分業化されてない昔のやり方で、できるだけ家をつくりたいと思っています。たとえば、「さきやま」さんという人がいましてね。

新居:徳島の方ですか?

中山:いえ、そういう職業の名前です。「先山」と書きます。

新居:名字かと思いました(笑)。

中山:はい(笑)。でね、その先山さんが家のこの部分だったら、どこそこのあの木がいいよって教えてくれるんです。木を伐る時期にしてもね、伐って良い時と悪い時があるんですけどね、そういうのを経済効率主義でやらずに、誠実に木と向き合ってね、木は生き物だということをお施主さんに伝えながら、家づくりをしたいと思っています。木の家は短命というイメージがあるかもしれませんが、きちんと修理して使い続けると、1500年持つことも証明されてますからね。

新居:単に木造ということじゃなくて、木を熟知した名工が建てる木の家、それが番匠中山の家ということですね。

中山:ま、そう言われると背筋が伸びますが、そういう家づくりを目指しています。

新居:あと、お値段的にはどうなんでしょうか? ・・・テレビショッピングみたいになってきましたが(笑)。

中山:ええ(笑)。こういう低成長時代ですからね、特に若い世代は1500万円ぐらいの予算をお考えの方も多いと思います。そういった方々にも納得いただける木の家を提案したいと思っています。

新居:社長、それは安い! 今ならセットで「龍の彫り物」もつきませんか?

中山:・・・つきませんねえ、それは(笑)。

 

 

対談後記

コピーライターを始めた頃、親父に「そんなんでメシが食えるのか、ちゃんと働け!」と言われたことがある。木の民たる日本人の暮らしを支えてきた木造建築技術は、時の流れと共にその継承者の数を減らしてきた。昔なら、僕は選択の余地もなく大工になっていたと思う。中山さんのような名工ではなく下町の「でえく」って感じで。こういう方が徳島できちんと伝統の技を守ってくれていることを知り、安堵と感動を覚えた。お祖父様は県選定保存技術保持者第1号、お父様はその第2号であり「現代の名工」にも認定されている。頑固一徹な職人という感じではなく、柔和で知的な語り口が印象的な中山さん。龍の如くますます飛躍されることを願う。

 

 

◎Yasuhiro Nakayama

昭和34年三好市生まれ。高知での修行を経て24歳の時に父である先代に師事。伝統的な木造建築の技、そして精神性を学ぶ。宮大工として社寺仏閣の建築はもとより、住宅部門「IDEAL HOME:愛である家」も展開中。「金具など今のモノでも良いモノは積極的に使う」という柔軟さも番匠中山の魅力。